今回、マルイロ主宰・作家のほんだたかことタッグを組むのは、マルイロにとってなくてはならない人物である不破大志さん。
ご自身が主宰する劇団 俵屋総本店では、俳優・演出家・プロデューサーの三役をこなす一方で、マルイロがいつもお世話になっている「ステージカフェ下北沢亭」の管理もしている。
マルイロが産声をあげる前からのお付き合いで、まさに縁が深い人物。
今日は、マルイロ主宰・作家のほんだと不破さんの馴れ初めから、今日に至るまでを振り返ってみた。
不破・ほんだ対談
不破大志(左)/ほんだたかこ(右)

―まずはお二人の出会いについてお聞ききしたいと思います。
不破 去年の冬にほんださんが下北沢亭の下見をしたいって連絡をくれたのがきっかけで知り合って
ほんだ リーディングをやるって企画を立てたときに、活動の拠点を下北沢にすることと、カフェでやれるところを探そうってことは決めてたのね。そしたらある制作の方から、ステージカフェ下北沢亭というところがオープンした、という情報をいただいて。下見に行ったらまあキレイで!
不破 去年(2013年)の7月にオープンしたばかりだったからね。
ほんだ トイレもきれいだったし、トイレがきれいなのは大事だから(笑)。不破さんも感じがよくて、ひそかに「仲良くなれる感じがする!」と思った。
不破 そうだったんだ。
ほんだ そうなの。それで、いい場所も見つかって、じゃあ1回目の公演をしようということで役者さんに声をかけていったんだけど、なかなか最後の一人が決まらなかった。今回で3回目だけど、最後の一人が決まらないっていう状況はけっこうきついもんで。旗揚げだったから、役者さんが決まらないと下北沢亭の予約もできないし、「マルイロは頓挫するのかしら?」って日々悶々としてたの。そういう不安を抱えて落ち込んでいるところに、定期的に不破さんが電話をくれたのよ。「どうですか~?」って!
不破 そうそう。
―絶妙なタイミングですね。何かを察していたんですか?
不破 いや全然わかんなかった。こっちからしたら、業務連絡だからね。
ほんだ え、そうなの?、ちょっとショック。でも、不破さんから電話をもらうと、「しっかりしよう! このまま諦めちゃいけない!」という気持ちになって。それがずいぶん助けになりました。 よかった(笑)。
―そういえば、お二人は同い年ですよね?
ほんだ そうそう。確かその電話のなかで同い年ってこともわかったんだよ。
不破 なんでわかったんだっけな?
ほんだ 私のメールアドレスに1980って入ってたのを、不破さんが気づいたんだよ。
不破 あ~そうだそうだ。
ほんだ それで不破さんから「同い年ですよね?」っていうネタがふられた瞬間に、「ああ絶対この人と仲良くなれる」って確信した。
不破 俺は下北沢亭にマルイロが来てからだな。ほんださんからオファーがあれば、いよいよマルイロに関わっていこうと思ったよ。というのも、1回目の公演のときは、ほんださんがちょっと大変そうだったんだよね。この人のことだからワタワタしてるわけですよ。「そんなとって食われるということもないんだから……」って思ってさ(笑)。
ほんだ 常にワタワタしてたね。デフォルトで慌ててるみたいな。
不破 もうずっと(笑)。「どうしようどうしよう、お金いつ払ったらいい?」とか言って。
ほんだ いろんなことを団体としてちゃんとしたい、って思ってから。
不破 それは見てればわかるから! 下北沢亭の管理をしているといろんな集団を見るけど、この集団は今後も付き合っていきたいな、何回も使ってほしいなって思ったよ。それに、同い年っていうのは俺にとってもすごく大きかったな。 ―二人の掛け合いが目に浮かびます(笑)。こうして第1回リーディング公演『トモの帰り道』(2014年1月31日~2月2日上演)を迎えたわけですが、不破さんは初めてマルイロの作品を見て、どのような印象をもちましたか?
不破 正直、「これはリーディングなのだろうか?」って(笑)。台本片手に持った芝居だろって。やたら動くしね。でも、これもありだなと思ったんだよね。定型の形があるわけじゃないけど、なんとなくリーディングのイメージってあるじゃない? そこからはみ出しているのがいい。
ほんだ ちょっと言わせてもらうけど、あれはリーディングだからね、私のなかでは。
不破  (笑)。
ほんだ  私のなかの「おもしろいリーディングってこうだ!」というのが、あのような形になったの。
不破 なるほどね。とにかく、これなら役者として出たいと思ったよ。
―ほんださんは俵屋に書き下ろししていますよね?
ほんだ 『トモの帰り道』で、じゃあ今度飲みに行きましょうねって言ってお別れして。それで、飲みにいったときに……。
不破 俺が「書いて」って話をしたの。あなたがマルイロをやったときから間もないときに、俺らも1回目の公演をやっているじゃない?
ほんだ うん、観た。
―不破さんの主宰する劇団 俵屋総本店の第1回公演(劇団 俵屋総本店第0弾公演『あて先をなくした手紙のゆくえ』2014年2月26日~2014年3月2日上演)は、マルイロのすぐ後に下北沢亭で上演されていますね。
不破 こっちも俵屋っていう新しいものを始めたばかりのときで、おんなじリズムで34年間生きてきた人間が新しいことを始めるっていうところにシンパシーがあったんだろうと思うな。
ほんだ そうだね。そんな感じだね。
―なるほど。余談ですが、お二人の学生時代はどんな感じだったんですか? 授業中とか。
不破 落書きばっかしてた。
ほんだ なにもしないでずっと違うこと考えてたり、脚本を書いたりしていたよ。
―やはりどことなく似ていますね! さて、ほんださんは俵屋への戯曲(『305号室』ほんだたかこ作、不破大志演出、2014年6月3日~8日上演。ストレートプレイ)を執筆しながら、マルイロの第2回リーディング公演『初めての恋』(2014年7月11日~13日上演)の準備も進めていましたよね。この公演には不破さんが役者として出演されています。
不破 そう考えると、今年はほんだ先生と仕事しすぎってくらい一緒にやってるな。
ほんだ ほんとだよね。このときは、演出をお願いしようと思ってたんだけど、「演出をやるならまず出たい」って言われて。一度は役者で出させてくれって。だから演出は私がやって、不破さんには出演してもらった。
不破 やっぱり様子がわからんとね。リーディングはまるで初めてだったから。
ほんだ 不破さんにはやくざの弟分の役でご出演いただいて。親分と兄貴分の板挟みになって、屁をこくという見せ場があったけど、このシーンは不破さんのために書いているから。
不破  (笑)。
ほんだ オファーと同時期くらいにすでに考えてたよ。「彼がやるとしたら、こういうのが面白いな」って!
不破 どういうことだよ(笑)。ほんださんの脚本は、言葉のチョイスが面白い。言葉のセンスは好きだなあ。しゃべっていて違和感がないんだよね。どうにもしゃべれないセリフだと、自分の生理に落とし込むための作業が必要になってくるんだけど、その作業は一切なかった。当て書きしてくれたからかもしれないけど。それにしてもストレスフリーだったな。
ほんだ ありがとうございます。
不破 あとは作品の完成度が高い。あなたはその完成度をちょいちょい疑うけどね。
ほんだ そりゃ疑うよ! 演出していても、役者がセリフに引っかかるたびに作家としてドキドキしちゃうからね。
不破 だから、次は演出をやらせてくれって思ったよ。ほんださんには作家に専念してもらって、もっと自信をもってもらいたいなって思って。ほぼ俺からだよね?、やらせてくれって言ったのは。
ほんだ まあ、でもこっちも隙あらば、とは思っていました。本当は演出をほかの人に任せたいと思っていて、そのほうが作品の世界が広がると思うし、それに、自分のなかで作家と演出の切り替えがうまくできないし。
不破 隙あらば(笑)。作家と演出を両方やってると、作家として作品に立ち返るのが可能な分だけ揺らいじゃう。その点俺は演出だけだから、変な言い方だけど俺の作ったもんじゃないって割り切れる。今回は作家として稽古場にでーんといてもらえれば大丈夫だから。
ほんだ そうだね。ほんとに、分業制を推進していきたいよ。
不破 なんだか、ほんださんが考えてることがわかるんだよね。お互いに次は何をするべきが、どういう展開にもってったほうがいいのかっていうのが。探るまでもなく、必然的に結果が出てくるような気がして。だから1年間に3本も4本も一緒にやれるわけですよ。
ほんだ 私も、個人的なことでいうと、上演時間が60分超の脚本をこんな短期間に何本も書くなんて初めてだよ! 今回で4本目。いままでこんなスパンでこんなに書いたことがない、破壊的。
不破 そうだね!
ほんだ 公演をやれる場所があって安心できるから書けるんだろうね。
不破 そのうち現場にいれなくなるくらいたくさん書くようなところに達したときに、ほんだたかこの真価ってもんが出てくると思うんだよ。あっちこっちに書かなきゃなんないから現場なんか来たかないよっていう。たまに顔出して差し入れだけして帰る(笑)。でも、主宰。それっておもしろいよね。
ほんだ うん。
―こうして、第3回リーディング公演『ホテルコロワニア』で、不破さんは満を持して演出家として参加されます。ほんださんは、今回演出を不破さんにお願いするにあたり、作品を書くうえで意識したことはありますか?「こういうシーンを書いてみよう!」とか。
ほんだ そういうのはないかな。不破さんは私にはできないことを絶対に出してきてくれるから。それよりも作家としての作品への責任のとり方だとか、自分のなかで伝えたいテーマや雰囲気、物語をきちんと書くことに専念しようと思ってる。あとはマルイロの主宰として、前回とは違う作品をお客さまにお届けしようっていうこともね。
不破 うん。
ほんだ たとえば、いままでは自分が演出する前提で作品を書いてたから、自分のスキルを考えると「キャストは最大でも6人までだな」と思ってたけど、不破さんが演出してくれるから変な制限なく思いついたことを書ける。 ―今回のキャストは、マルイロ史上最多の9人ですね。
ほんだ そう、人数が多くて、70分前後の尺に収めるのが大変だった。あとは、これまでは友人やお知り合いと作ってきたけど、今回はオーディションをしてそこで出会った人たちとオファーした人に出てもらっているから、ほとんど初めましての人ばかりで。いい意味で距離があるから当て書きはしていない。そんな役者さんたちと不破さんの演出で、私が書いた本がどういう芝居になるのか、ちょっと楽しみ。もちろん、お客さまは役者を観にくるものだと思うので、それぞれの役が魅力的に光るくだりを書くようにしている。
―不破さんと話していて、アイデアとして盛り込んだものはありますか?
ほんだ 不破さんのプロデューサー的アドバイスをいただいて、クリスマスの要素を盛り込んだな。
不破 そう、季節感をね。あとは「お客さんはこういうものを見たいんでしょ?」っていう要素も(笑)。
ほんだ そういうのは大事だよ。お芝居を見にくる人は心をスッキリするために来ていると思うからね! 救いというか。
―救いといえば、俵屋の芝居もマルイロの芝居も観た後の感覚が似てますよね。救われる感じが。
不破 そうだね。俺が共通点として思うのは、「最後なんだかんだいって人が救われる」ってこと。これはすごい大切なことだと思う。救いようがないと後味が悪い。人が救われてきちんと話をおしまいにするっているのは、作家が一番大変なところじゃないかな。
ほんだ うん。でも、自分が観客になってもそういう終わり方が好きだから、自然とそうなる。
不破 やっぱりここで大切なのは、マルイロのコンセプトの「観終わったあとに、誰かと手をつなぎたくなる」という部分。これを出すことが、俺にとっての命題だな。
ほんだ ありがとうございます。不破さんは私の本のよき理解者で、こちらの意図を汲んで読み解いてくれるし、アドバイスも的確ですばらしいんです。本当にありがたい。
不破 まあまあ。
―いいコンビですね。そういえば、ほんださんは前回のマルイロのリーディングのあと、「ふだん演劇にふれない方と演劇の架け橋になることが私の役目なのかもしれないと思った」と言ってましたよね?
ほんだ うん、そんな気がしていますね。芝居のことをよく知ってても知らなくても、フラットに見て面白いと思えるものがいい作品だと思うから。ちゃんとチケット代の分だけお客さまが満足して帰れるのかっていうところが大事だと思う。
不破 ほんとそう。ずっと芝居をやっていると、自分のなかでのものさしができちゃうんだよね。どの商売もそうだと思うけど。我々みたいな芝居屋は、ほかの芝居屋の仕事を見ても、やっぱり純粋な目では見れないんだよね。努力はするけど、「俺ならああする」とか思っちゃったりする。どうしても腕組みするし。
ほんだ うんうん。
不破 まあ、北風と太陽じゃないけど、お客さんの腕組みをいかにほどかせるかっていうのは大事かもね!
―物事のタイミング然り、演劇人としての在り方然り、たくさんの共通点がある二人でした。
ほんだ×不破、そして魅力的な役者陣でお届けする次回作『ホテルコロワニア』。乞うご期待!
(聞き手:椎野明子)

◆対談者略歴◆
不破大志 1980年生まれ、横浜市出身。俳優 演出家 プロデューサー。劇団 俵屋総本店主宰 高校生時代から芝居を始める。当時の同級生と劇団運営と芸能プロダクション経営(TEAM JAPAN SPEC)。 2011年解散後、現在は劇団俵屋総本店主宰
ほんだたかこ 1980 年生まれ、千葉県出身。劇作家・脚本家。演劇ユニット・マルイロ主宰 大学在学中から現在までいろんな寄り道をしてきて、2014年、演劇ユニット・マルイロを始動
◆キーワード◆
(1)ステージカフェ下北沢亭 下北沢駅南口から徒歩4分のところにある、ステージ風カフェバー。普段は、小劇場の趣を感じながら、仲間との語らいを楽しめるカフェバーとして営業。芝居や園芸、アコースティックライブなどの貸切イベントも行える。余談ではあるが、下北沢亭のトイレの看板はマルイロ寄贈。
(2)劇団 俵屋総本店 俳優柴野弘志氏と不破大志氏の発起による劇団。2013年7月設立以降、下北沢を拠点に活動中。 4人の俳優による、心がホッと一息つくような魅力的なお芝居を上演。 来春に本公演を予定。役者 不破大志をみるチャンス!
(3)演劇ユニット・マルイロ 第2回リーディング公演『初めての恋』

◆◆◆公演情報◆◆◆
 演劇ユニット・マルイロ 第3回リーディング公演『ホテルコロワニア』
 2014年12月17日[水]〜20日[土]
 ステージカフェ下北沢亭

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